little by little, the amount of letters is decreasing

少しずつ減っていく手紙の量に、いろいろ想像を巡らせる。
それが現実でないにもかかわらず。

photos

はっきりと見えない方がきれいでした。だいたいのことがそうなのかもしれません。

photos

毎日正午に、家から少し離れたところにある建物のドアベルを鳴らすという、ちょっと変わった頼まれごとをしている。期間はおよそ二週間。ベルを鳴らす以外のことは何もせず、鳴らした後の反応を確かめることもなくすぐにその場を立ち去るので、建物の中に誰かいるのか(いないのか)それすらも知らない。

stardust

届いた郵便物には星屑が入っていて、封筒を開けるとサラサラいくつかこぼれ落ちた。拾い集めようとしたけれど、あまりにも小さくてうまくつかむことができなかったから、もうそのまま置いておくことにした。床にきらきら星が輝いている。そしてそれらはこれから幾度となく、踏みつけられていく。

dream dream dream

夢なのか、夢を想っているのか、ちょっと区別がつかないまま。長い間写真を見つめている。

and lemon tart

レモンケーキと

midnight

ケーキを食べようとずっと店を探しているけれど、それはいっこうに決まらない。ひょっとしたら、ほんとうは食べたくないのかもしれない。

once upon a time

ここできのう見た夢について話したときのこと/長距離バスに乗って移動するということで、切符を買いに窓口まで行き、そこで上から三番目に書いてある行き先を選ぶことにする。文字は読めるので、全くどこへ行くのかわからないというわけではなかったけれど、到着までにどれくらい時間がかかるのか、どのような道を通っていくのかは、まるで想像ができなかった。ただ馴染みがないというのはわたしだけの話で、バスの中にはたくさん人が乗っており、きっとそれぞれにその先々に既知のものがあって今ここにいるに違いなかった。こんなあやふやにおろおろと、これからのドリンクとおやつのことくらいしか考えていないわたしのような人はほかにはいないだろう、と、自分のかなり気楽な手荷物を見ながら思った。

in the water, in the room

窓が閉まっているのにも関わらずふいに霧が肌に触れてきた。それより一瞬早く水の匂いもした。わたしはキーボードを打っていた手を止め、じっと周りをうかがったけれど、何も捉えることはできなかった。霧はそのままからだの表面をヴェールのように薄く覆い、そしてふっと息を吹きかけると消えてしまいそうなくらいにそっと留まって、じんわりとわたしのからだを冷やしていった。

sandwich room

サンドイッチのような部屋で。

lunch time

時計を見たらもう14時をまわっていた。とても寂しい状態の冷蔵庫からきゅうりを一本とチーズのかけらを取り出して、サンドイッチを作ることにする(「作る」といえるほどのものでもないのだけれど)。チーズスライサーがだいぶ前から行方不明なので、ナイフでチーズをスライスしようとしたが、それはしないほうがいいとお店で言われたことがあった。硬いチーズに力づくでナイフを入れて無理やり削る。分厚くてぎこちないチーズのスライスがたくさんできてしまう。失敗作もいくつか、その小さいかけらをつまみながら、きゅうりを切る。わたしはきゅうりのこの青々としたみずみずしさがそんなに得意ではなかった。ただハムやチーズのような塊のものと一緒だと、割とおいしく食べられた。パンはトースト。その上にできあがったチーズときゅうりをたくさん重ねてのせた。暖かくてカリッと香ばしいパンとシャキシャキのきゅうり、ちょっと厚くてぜいたくな気分になる塩気のきいたチーズを一緒にめいっぱい頬張る。ガス入りとノンガスの水を半分ずついれたコップにレモンをけっこう絞って、ごくごく飲む。ちょっと遅めのランチ。昨日のラジオの録音が、ちょうど「それではおやすみなさい」と言った。

rusuban

管理人さんに留守番を頼まれた話/急に出かけなければいけなくなったからほんの少しの間ここの番をしてくれないかな、すぐ帰ってくるから、と言われて、断ることもできずわたしはそこの小さなカウンターの内側に隠れるように座った。今日は休みで比較的人通りも少なく、たぶん誰もやってこないだろうけど、それでもぜんぜん落ち着かなくて、ずっと時計ばかり見ていた。おもちゃみたいなシンク、数個だけ並ぶカップ、ミニコンロ、ジュースしか入っていない冷蔵庫。必要最低限のものしかないこのキッチンカウンターは、そのコンパクトさがとっても好きだったけれど、それは横から眺めているからいいのであって、主人になるのは勘弁してほしかった。

how many

how many

わたしの前にはずらりと人が並んでいて、彼らは順番に話していく。次から次へと途切れることのないその大量の言葉(とそれを後押しするもの)は、助言なのかなというものであったり、あるいは猛烈な主張だったり、そうかと思えば深刻な相談だったり、はたまた非難めいていたり、いろいろあった。 

いつまでも続いて終わりの見えないその列に、わたしは力を抜いて向き合っている。がしかしほんとうのところは、そのどれもに見事なまでに反応をし、ひたすら一喜一憂し続けていた。それが浅はかであるということがわかっているにも関わらず。

思いはくたびれる。
それは話している彼らも同じだった。豊かであればあるほど、また逆にそれが控えめであればあるほど、その芯の確固たるものはより大きかった。
できれば持っていたくない。そんなものは誰かに渡してしまいたい。
それはおそらくここにいるみんなが(もちろんわたしも含めて)そうだった。

half moon

香りをのせるための、月のかけら。

moon

思いかけず大きな月に出会って驚く。まだそれは出て間もなかった。わたしは手紙を出すためにこんな遅い時間に外へ出た。街は静かというわけではなく、たまに営みの音が横を通り過ぎていった。誰かがつけていった灯りもちらほらあったりして、暖かさもあった。ただしかしその大きな月と向かい合っているとどうしてもこの世界に自分一人だけのような気にさせられた。かなり控えめだけど絶えず動きのあるこの街の中で、いつもより大きく微動だにしない(ほんとうは動いているのに)目の前にある存在を前に今夜は萎縮した。そうなるともうなんだか居ても立っても居られなくなって、手紙を出さずに家に帰ることにした。

egg

オムレツをつくった。

moon walk

やかんをコンロにのせ、ガラスのカップでその中に水を注ぐ。コンロのスイッチをひねるとチッチッチという音と同時にボッと大きく火がつくので、すぐにやかんの大きさまで火を調整する。お湯が沸いたら、コンロの炎をめいっぱい小さくし、控えめに沸騰させ続ける。やかんはしゅんしゅんと音を小さく出しているが、湯気はわりと勢いがいい。そんな動きのある中でお茶を何煎かいれる。

on the table

そこに表されているものはあくまで結果なので。

apple juice

リンゴジュースのパックを冷蔵庫から取り出し、中身があともう少ししかないということに気づく。ただ今日は朝から雨が降っていた。いちばん近くの食料品店は休みだろう。雨が降ったら休みという、昔のイギリス貴族みたいな仕事をしているあの店の主人は、かといって晴れの日でもそんなに仕事をしているわけではない。買い物に行っても「それないなあ」とか「あ、忘れてた」とかという台詞を言われることはしょっちゅうで、わたしはその度にとぼとぼ家まで帰る。さて、明日雨が止んだら、あの店に、リンゴジュースはあるんだろうか。いや、それよりまず明日、雨は止むのだろうか。

take a walk at midnight

「夜散歩しにいこう」彼女はそう言って出かけて行った。煙草屋の店先で日が暮れたら待ち合わせ。夕方、パンの入ったビニール袋を持って彼女はやって来た。わたしにはイチヂクとクルミの入ったパン。「こういう茶色くて硬いのにしておけばいいかと」そんなふうに言われて、なんだ適当な選ばれ方だなあと思う。けれどひとくちかじったら見た目通りにおいしくて、クレームをつけようもなかった。「ありがとう」とひとことお礼を。