waiting for tram

マーケットで今日の野菜と今日の花を買い、そばの停留所でトラムを待っていたら雨が降り出した。それは小さい粒で肌に当たるのが気になるか気にならないかくらいだったけれど、それでも困ったなと一瞬思った。多くの店はこの時間もう店じまいを始めていたので、この雨にみんな片付けの速度を早め、港の景色(マーケットは港の広場にある)は勢いよく寂しくなっていった。気配が一気になくなっていく場で取り残されたように一人トラムを待っていたわたしは、なんだか帰るのが急に惜しくなり、マーケットにあるホールに向かうことにした。

music from…

窓を開けたのは、夜がそうしろと言ったから。道を挟んでどこからか小さな音楽が聞こえてきた。あまりにもすべてが静かすぎた。お茶をカップに注ぐのも、本のページをめくるのも、そして涙を流しているのも聞こえた。わたしは窓を閉めた。

chocolate

いよいよ明けようとする夜の終わりの、ふっとした溜め息からこぼれる、ほんの少しだけ淡い青の混じった甘い甘い漆黒。今の季節それはそのまま溶けて、スプーンひとさじのチョコレートになる。

heart beat

目を瞑ると心臓の鼓動が聞こえる。

essentially

ラベンダー、ローズウッド、ローズ、パチュリ、クラリセージ、バジル。ブレンドオイルの香り。馴染みのよい軽さの中に、一瞬目があって戸惑った時のような濃さ。

flowers

毎日新しい花が咲いている。

full moon water

いつもの森へ。朝靄の立つ湖で満月の水を汲む。森のしっとりとした深い懐の中を歩いたから足元は結構濡れてしまった。持って帰った水は小さな小さな瓶に分けて閉じる。行き先はこれから。

wind blows

風はとてもおしゃべりで、カーテンを揺らし、頬をさわり、花の香りを運んでくる。

flowers on Wednesday

水曜日には花が届く。小さな花束がいくつかと数種類の花が数本ずつ。それを知っている人たちがここにやって来る。そして各々好き好きに花を選んでいく。

books on the chair

「蒼い木」の小さな小さな新芽から満月の日にだけしたたり落ちるしずく、その生態が描かれた本。涙が止まらない時、そのしずくを1つぶ目に落とす。すると一瞬にして水の風船が自分の周りに出来上がり、その風船の生暖かい水の中、自分が泣いているのかどうかわからなくなる。

堅く冷たい岩とずっと沸き立っている湖しかない国の写真集は、小さな飛び回る妖精や、もう少し不気味な風貌の精霊、よくわからない動物も載っていて、まだまだ会ったことのない存在もたくさんいるのだと思わせられる。

知らない言語で書かれた本。意味のわからない言葉は、美しい記号や形の羅列となって新たな意味を持ち、色すらその付加価値となる。それは木の枝を並べて描かれたり、羊の毛の糸を編み込んで表現されたり。言葉としての意味はわからずとも、それ以上の意味を与えてくれる。

伝書鳩の日記。日記は普段あまり読まないが、この伝書鳩のものは別。伝書鳩は一定のところに行くものだと思っていたが、たまにそうでない鳩もいるらしい。この日記の鳩は便りを届ける相手が次々に変わっていった。世界中をあちこち巡り、また時々次元も飛び越えた。様々な相手とエピソード。豊富な経験により鳩はどんどん変わっていく。面白いのは経験でない、その変化。

flowers

屋根に登ってひなたぼっこ。傍らには近所の猫。曇ったり日が射したりのコロコロ変わるお天気、風が吹くとまだまだ寒い。すぐ部屋に戻ってしまう。

catch a cold

喉が変だと思っていたら、少し咳が出だした。じきに頭がぼーっとなり、耳の付け根も痛くなる。本を数冊抱え込んで毛布に包まり読み出すものの、すぐに眠くなり目を瞑る。うたた寝。ほんの短い夢。いつもの森に新しい道を見つけた。蝶に案内されるまま、しっとりとした土を踏みしめ、少し草をかき分け進む。まだ暑くなる前の緑の匂い。深い空気。ふいに小さな池が現れた。湧き水がこんこんと溢れているのが水の動きでわかる。そっと手をつけ、その感触を自分の中に沁み渡らせる。そして入れ替えにわたしの違和感を明け渡す。

pharmacy

薬局に行く。新しく増えていた古い本をペラペラとめくりながら、主人と話す。わたしに今合いそうだと思うハーブをいくつか選んでもらい、試しにブレンドして淹れてもらう。微かにすっと熱が引くような風味。喉を通した瞬間わたしの中にあったイヤなものが上に抜けていった。本は美しい押し花のものを。

reading books

誰も来ないカウンターで頬杖をついて読んでいるのは、美味しそうな食事の本。

tea time

花のお茶。ほんのわずかだけど苦味のあるもの、トロリとするもの、香りがしっかりするもの。トゲトゲした気持ちを中和させ、柔らかく包み込み、新しさで満たしてくれる。

sunset

初めてのことをいくつかする。久しぶりのこともいくつかする。
木のちょっとした剪定。小さな緑の置き場所の移動。皆うれしそう。

new moon

風が強い。

星が一番よく見える日。ただ分厚く覆われた雲があるから今夜は無理そう。今はその厚みから微かな日の光がこぼれている。少し向こうにある厚みからこぼれているのはきっと雨。いろんな空がある。

tea time

とっておきのお茶を開けた。処方箋。少し長い昼寝で頭がまだぼんやりしている。温かさが身体中に染みる。ふたたび寒い日。

watch the movie

毎日緩やかによい天気。

風がやや冷たくてキュッと体に力が入る時があったり、地面に散らばる花びらをじっと見る時があったり。
眺める川は逆向きに流れている、薄暗くなった部屋で小さな明かりを頼りに片付けをする。

ご飯がうまくできると、とてもうれしい(失敗も同じくらいする)。
新しく出来上がった場所に、新しい空気をずっと通してあげている。
目を瞑ると、たくさん見えて聞こえてくる。

今までの選択肢が少なくなればなるほど、新しい選択肢がどんどん増える。

letter from me

手紙を書いている。
届く予定のない。

話したいことはいくつもあるけれど、話すべきことなのかどうかはわからない。
思うこともあるけれど、思っているだけでいいんじゃない。
いつもと変わらない毎日、それは代わり映えがないのではなく、平穏だということ。朝の寝起きはバラバラだし、作るご飯の出来栄えもバラバラだし、暖かいようで寒いし、昨日つぼみだった花は今朝もう咲いている。
それだけ。

そんなことを誰かに手紙でこっそり書いている。
誰かから返事は来るだろうか。