drive my car

between us

ふたり会議

mountain and pink

ピンク色の空と真っ白な山と。

orange juice

ぎゅうぎゅうといくつも絞ったら部屋の中いっぱいに柑橘の匂いが広がって、その小さな小さな香りの粒(ほんの少し刺激的)の海の中、わたしはそっと目を瞑る。大きさの合っていない絞り器であちこちずらしながら絞っていたが、すっかり手首が痛くなって、まだ絞りきれていない分はもう食べてしまうことにした。なんだかオレンジ色って元気が出る色だな、いやイエローだってポップでパワフルな感じだし、そう言うならグリーンは清々しい生命力を持ってるよ、と、どうでもいいことを言い合って、そんな風に話はいつもよくわからないところに歩いていく。できあがったジュースにほんの少しだけソーダを混ぜてみた。でもそのままの方がよかった。こんなにたくさん絞ったけれど、彼女は柑橘が苦手だから、わたしがひとりで満喫して飲む。

listen to the rain

雨の音を聴きたいわたしは、部屋の音楽のヴォリュームを下げる。

sleeping

久しぶりに会う人は、雨の中傘もささずに立っていた。今日は少し寒くて、わたしは待ち合わせに遅れたことをとても申し訳なく思った。彼女は紙コップに入ったドリンクを持っていたが、それはもう雨で柔らかくなっていて、中にはきっと雨水が入っているはずだった。わたしに気付き、少しだけ表情を緩めた彼女は、残っているであろうをものを飲み干した。それを見て、わたしは出かかった言葉を飲み込んだ。

oshaberi

チョコレートケーキ、レモンクッキー、溶けるマシュマロ。お茶は煎を重ねて、カセットテープは何周も同じ音楽を流している。

strawberry

甘くて甘い。

the window

小さな願い事をそっと口に出してみるけれど、開かない窓に跳ね返される。外に見えるあの木に触れたくて手を伸ばそうとしたが、それは届くことがない。雨が激しく降って雨粒が窓についていく。守られている側から眺める景色の大きな安心感。願い事はほんとうは秘密にしたかったから、そのまましまっておく。

and it rains

また雨が降っている。

sleep sleep sleep

激しい雨の後、太陽に照らされた窓はずいぶん汚れている。新しいコーヒーショップが家の隣にオープンした。曇った窓の向こうに、いつもより少し多い人の行き来を眺める。

she is on

昨日開いたページには後悔の言葉が書かれてあって、今日開いたページには謝罪の言葉が書かれてあった。
明日読むページには大いなる不安の言葉が書かれてある。
彼女はその詰まった思いの数々を一瞬は気にした様子だったけど、すぐにずかずかその上を歩いたと思ったら、さらにそのまま座り込んでしまった。

lemon to

レモンの味のするリンゴを持ってきたよと言われたけれど、わたしはリンゴの味のするレモンが欲しかったのに。

market in the morning

朝のマーケットに遅刻したら、やっぱりどこのお店ももうけっこう品物がなくなっていた。おまけに温かいフードのいい匂いが向こうのほうからしてくる。思わずそちらの方へ引き寄せられそうになったけれど、そうではなく、わたしはまず食材を買わねばならないのだった。ひととおりぐるっと見回したら、いくつかのお店でいくつかの野菜を、果物を、そして卵を。はじまりの活気も落ち着き、人もまばらになったマーケット。それはそれでいろいろ要領が悪いわたしにはいいのかもしれない、というのは、偶然の新しい発見だった。

spring

さっきティーポットに入れたお湯はもうとうに時間を過ぎているのに、放って置かれたままになっている。きっとお茶は苦くなっているだろう。

short short

部屋の窓はまだほとんど閉じられていたが、新しい季節がその隙間からそっと入り込んできていた。郵便物を取りに外に出たら、馴染みのあるあのちょっぴり悲しい生温かさとチリチリする砂混じりの風を、まったくの無防備で思い切り浴びてしまう。思わず眩暈がして、しばらくその場に立ち尽くした。

one day I miss you

one day

20240210newmoon

扉をノックする音が聞こえたので開けてみたら、さっき帰ったばかりの彼女だった。乗るはずだったバスに遅れてしまったと言う。外は冬の冷たい雨がしっかり降っていた。彼女はコートに付いた水滴を払い、小さなストーブに手をかざして、もう少しだけ話していってもいいかと尋ねた。もちろん、とわたしは言って、やかんを火にかけた。

osoi

今日の雨は冷たく重かった。ポットのお茶はすぐに飲み干して、また作らなければならない。窓一枚を隔てた外との距離は雨のおかげでとても近く、耳を澄まさなくとも心地よく庭の色が聞こえてきた。霞んだ小さなその場所は目を閉じると大きな森へ繋がっていた。土はぬかるんでいた。さりげない、忘れていた、しょうもない、そんなことがかつてあった。

morning morning

おそいおそいおそい朝ごはんには
やさしいやさしいやさしいコーヒー
ちいさなちいさなちいさなクッキーが
はみでてはみでてはみでて置かれる