旅の出発は月曜日に。
season2
2023 sep full moon
クロスワード・パズルを解きながら、わたしたちはお互いにそのキーワードについて思いつく話をしていった。わたしの話はなんのオチもなくガッカリするくらいつまらない小話だったが、彼女の話はひとつひとつがとても長く、そしてそれらは必ずと言っていいほど何かしらの悩み事に繋がっていくものだった。途中ハンバーガーとアイスティーが運ばれてきたけれど、お構いなしに彼女は話し続け、そのままランチは置き去りに、しかしパズルのマスはどんどん埋められていった。現れてくる言葉に一喜一憂し、気持ちの行ったり来たりを繰り返す、結論の出ない堂々巡りをしながら、もう何も書き込むところがないパズルが出来上がった時ですら、彼女は嘆いていた。
すっかり冷たくなってしまったハンバーガーは塩気が強く感じられるしょっぱいもので、氷が溶けてぬるくなってしまったアイスティーはぼんやりと味気なかった。しかしわたしは硬めのハンバーガーだって好きだし、それはそれで味わうものでもあった。揺れ動く彼女の振り幅ゆえに、わたしは彼女と交わることができた。彼女の話は、わたしの話でもあった。彼女の不完全さは多くのものを受け入れ、その中にはわたしもいた。その広い海の中では、誰もがあたたかく泳ぐことができた。
ただ彼女だけが、それを知らないのだった。
new moon 20230915
約束の時間に約束の場所へ行ってみたけれど、そこには誰もいなかった。 / こっそり話した願いごとは、やはり誰にも届かない。 / ほんのりと温かい甘い甘いスープ。 / 彼女があくびをする時。 / かばんの中から古い手紙を取り出して読み返す。もう幾度となく手に取られた便箋は、すっかりくたびれよれよれになってしまった。それでもそれを読む時、再び同じ感情が呼び起こされる。 / 約束の時間はわたしがひとりで勝手に決めたもので、約束の場所もわたしがひとりで勝手に決めたものだった。相手からはなんの返事もなかった。それはもちろん、約束とは到底言えないものだった。
today I went to the museum
each other
待ちくたびれた。お腹が空きすぎると眠くなる。
each other
あわてて帰ってみたものの、家に着く頃にはすっかり日は暮れていて、お腹を空かせて待ちくたびれたであろう彼女はソファで寝てしまっていた。買ってきたサンドイッチと温かいお茶の入ったポットをテーブルに並べ、彼女が起きるまで待つことにした。
dokin donuts
作りすぎてしまったドーナツは、粉にミルクを入れ忘れ、揚げすぎて黒っぽく、形はいびつで、ボソボソしていた。
another scene 2023 sep full moon
another day
寄り道の帰り道。
endless summer
夏のおいてけぼり。
pool
真夜中のプールには誰もいなくて、わたしと彼女のふたりだけ。
ta too
タ・トゥーは旅に出ると言ってある日突然いなくなってしまったが、たくさんの桃を置いていったから、その香りの足跡がはっきり残っていて、それをたどってすぐに居場所を見つけられてしまう。
another story
また別の物語。
lemon and ginger
ティーバッグのお茶はジンジャーがしっかり効いていて、それはひりひりするくらい。
another scene
またもうひとつの景色。
secret of my secret
閉じ込められて動けない。
a piece of
自転車が大きくカーブを曲がる時、カゴの中の入れていた水筒が外に落ちそうになって、思わず手を伸ばしてみたけれど。/ 約束の時間には到底間に合いそうになかったが、遅れるということを伝える手段もなく、心の中でひたすら謝り続けるしかできなかった。/ 薄い黄緑色をしたお茶は、クリアな見た目とは違って、しっかり口の中に風味が残る。その余韻。/ 雨が勢いよく降ってきて、その激しさに彼は怖いと言って立ち止まる。/ その断片は、断片以上でもなく断片以下でもないから。
hwyl
久しぶりに纏うのは、ベチバー、フランキンセンスの香り。
lemon cream tart
レモンクリームのタルトは、すっぱくて甘くてずっしりと重さ。その鮮やかな浮かれた太陽には、しあわせと呼ばれるものがみっちり詰まっていたが、それはわたしのどこかおぼろげなところから、チクリとする痛みを引っ張り出す。
刺さった針を抜くために、お茶を何煎も重ねた。しかしどれだけしっかり濃く出しても、その痛みはまるで消えなかった。そこには暗くて苦いお茶の入ったカップが、ただただ並んでゆくだけ。
the sun always shines on you
少年は、隣の家に越してきた双子の少女と自転車に乗って川へ泳ぎに出かけるが、途中でタイヤがパンクして動けなくなってしまう。すぐに少女の一人が助けを求めに街へ戻ったものの、いっこうに帰ってこない。残された二人は熱い日照りの中、隠れる場所もなく、ひたすらくたびれてゆく。次、もうひとつなにか動きを取る方がいいのか、それともおとなしく待つ方がいいのか。彼らはそれを決めかねていた。しかし太陽はその様子を、ただじっと見ているだけだった。