
わたしは温かい紅茶を、ヒツジは冷たいコーヒーを頼んだ。ランチタイムを過ぎたカフェにはあまり人もおらず、少し落ち着いた時間を過ごせそうだった。わたしは窓のそばの明るいソファ席に座ろうとしたが、ヒツジが眩しいのは疲れると言ったので、窓からいちばん離れた奥のテーブルを選ぶことになった。
ひさしぶりに顔を合わせたわたしたちは、具体的な日々の事柄を報告しあうような会話を続けた。ただ表面的には穏やかに流れる時間の中に、もう一歩踏み込みたい、その具体的なものの中になにか抽象的なものを見つけたい、そんな願いに近いものを、わたしは了見のせまい手でじんわり握りしめていた。
ヒツジがふとしたときに見せる仕草に、すぐにでも消えてしまいそうなくらい弱々しい光を感じて、わたしはこの人への想像をエスカレートさせてきた。いつこぼれ落ちるかもわからない小さな星の欠片を、注意深く観察し、熱心に集め、なんとか自分に絡ませようとした。そうすることでヒツジの中に自分と同じなにかを見ようと、いや見えると、思っていたから。
わたしの残った紅茶はすっかり冷めて、ヒツジの飲み干したコーヒーのグラスは氷が溶けて水だけになっていた。わたしの願う、光のようなものを並べてふたりで眺める、そんな時間はもはや残っていなさそうだった。でも、わたしは諦めが悪かった。ケーキ食べたくない?、そう言って、もう少しだけ可能性の糸を探そうとした。その時ヒツジの表情の中に一瞬翳りが見えたことに、とてつもなく傷ついたにも関わらず。
