「これ、好物でしょう…?」と言って、小さな箱を持って店に入ってきたのは、三軒隣に住むマダム。彼女はここに置いてあるものを面白がっていて、ちょこちょこ選んでは持って帰ってくれる。わたしと同じく長い間一人で暮らしているみたいだけど、いまだに何をしているのかよく知らない。ただ時々その家に見知らぬ人が出入りしているのを見かけるが…、それだけであとはなにもわからない。でも彼女が話さないのなら別に聞こうとは思わないし、彼女もわたしのことを何にも聞いてこないから。お互いに目の前にある事実だけで十分ということなのだ。