a girl

a girl, a boy

さっき前を通ったコーヒーショップに、懐かしい顔を見かけたような気がした。もう何十年も前のことだから、ひょっとしたら間違いなのかもしれないけれど、ほとんど消えている記憶に年月を足した姿は、あんな感じになっているようにも思えた。
あの子がコーヒーを好きなのかどうかは知ることもなかったが、あの頃はメロンの味のするソーダをよく買っていた。わたしたちはそれを寒い冬でも飲んでいて、たいして温かくもないコートを着ているだけの薄っぺらい格好に、素足を放り出し、さむいね、さむいね、と言いながら、冷たいコンクリートの階段に座って、延々となんでもない時間を過ごした。それはとっても軽薄で、もうちっとも思い出せないくらいの。
わたしはなにかで空白を埋めることに慣れてしまった。まともに見えないメガネをかけ、何重にもジャケットを羽織り、コーヒーショップに入っても、窓の外すら眺めない。メロンの味より、メロンそのものがいいに決まっていると言い切って、ソーダを蓋も開けずに、ダストボックスに放り込むのかもしれない。
コーヒーショップに居た(かもしれない)あの子は、なにを飲んで、なにを見ていたのだろう。メロンの味のソーダを飲んでいてくれたらと、勝手なことを願いながら、わたしは来た道を引き返す。