20241223

編み込まれた時間

ずっと住んでいる街なのに、こんな路地は知らなかった。それは細く暗く、どこに延びているのかたどれない、見えそうで見えない暗い闇。わたしの足になにかがそっと触れ、その路地にするりと消えていった。黒猫だった。猫は一瞬振り返り、何も言わずにしっぽを上げる。わたしは促されるように路地に入った。
連なる家から聞こえる誰かの日々は、話し声、クラシックの音楽、料理をする音とその匂い、いくつもの色があった。ひんやり湿った足元を滑らないように、しかし猫を見失わないように、わたしは進んだ。けれども向こうのほうにあるように思える何かは、いつまでたってもぼんやりとつかめなかった。猫は少しずつ遠く小さくなり闇の中に溶けていく。やがてわたしの行き先は届かなくなる。振り返ってみても、そこには何もない暗い闇が広がっているだけ、さっきまであった誰かの日々ももはや消えていた。